ザ・研究室訪問:京都府立大学 生命環境科学研究科 動物機能学 井上亮先生

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1型糖尿病根治に向けた先端研究についての現状を、直接研究者の方から伺う研究室訪問企画。

日ごろ寄付としていただくご支援がどのように研究現場で活かされ、現在進展しているのかうかがってきたことをお伝えいたします。

今回は 京都府立大学 生命環境科学研究科 動物機能学 井上亮先生 の研究室を訪問して参りました。

参加者10名とボランティア1名、日本IDDMネットワークからは井上龍夫理事長が参加しました。

 

井上亮先生からのメッセージ

研究室訪問

研究室の見学


始めに実際の研究室を訪問させていただき、井上先生の研究がどのように行われているのかを拝見させて頂きました。
(こちらでは写真撮影が不可でしたので写真はありません)

筆者(1型糖尿病歴8年)がまず驚いたことは、バイオ人工膵島が既に臨床研究や治験として使用されている国が複数あったことです。日本ではまだ実用化されていませんが、北欧や中国などではバイオ人工膵島が実際に数100例も使用されているそうです。日本でも安価で安全なものが早く普及するといいですね。

研究室では「ブタの膵島が安全かどうか=病原体がいないかどうか」のチェックを行う機械や装置を見せていただきました。

 

研究内容


談話室にて井上亮先生から研究内容のご説明をいただきました。
まずは、日本IDDMネットワークの井上 龍夫理事長からのご挨拶の言葉ではじまりました。

理事長:IDDMネットワークは日本全国をカバーしている組織で1型糖尿病の患者とその家族のサポート、そして研究の支援をしています。今日は参加者10名のうち7名が1型糖尿病患者です。このような機会も珍しいことですのでぜひいい会にしたいと思っています。

参加者同士が自己紹介をしたところで、いよいよ井上先生からの研究紹介です。

(理事長と患者・患者家族、研究室の学生2名自己紹介)

井上先生:我々が行なっているのは「バイオ人工膵島移植実現に向けた感染症検査体制の構築」です。

バイオ人工膵島とは動物の膵島細胞またはヒトのiPS細胞やES細胞由来の膵島細胞などを特殊なカプセルに入れることで拒絶反応を抑えつつ、インスリンを分泌できる状態にしたものです。

ブタからの膵島細胞の移植というのは異種動物間移植になります。ヒトではなく、違う生物からの移植のことを異種(多種)移植という言い方をします。

なぜブタなのか?ということですが、霊長類を除くと遺伝的にヒトに近いと言われています。そのうえ、他の動物に比べてブタは1回に生まれる子供の数が多く、新生仔が大きく生まれるため、多くの膵島細胞を取ることが可能です。

まとめると、ヒトと遺伝的に近く、生産性が高いため、ブタが選ばれています。

移植用の膵島を得るドナーブタは肉用に飼育されたブタではなく、病原体を持たない綺麗な医療用のブタでなければいけません。感染症検査に合格した医療用のブタを専門的にはDesignated Pathogen Free(DPF)ブタと呼びます。DPFとは指定病原体に感染していないことを指しています。指定病原体とは国や地域によってブタに感染し得る病原体が異なるため、国際的な統一規定はありません。そのため、国内に存在する病原体の検査系を優先して作って研究を行なっています。

検査方法は基本的に2種類で、PCR法とメタゲノム法の2種類です。

PCR法とは病原体の遺伝子をコピーして何倍にも増やし、見えるようにして行う検査です。エボラ出血熱やジカ熱の感染検査にもこの方法が用いられます。

メタゲノム法は存在する遺伝子を全てチェックして病原体の遺伝子が混ざっていないかを確認する検査です。こちらは安価になったとはいえ、PCR法に比べてはるかに高価で時間がかかることが課題です。

PCR法とメタゲノム法を使い分けて、費用と精度のバランスを取る必要があります。

 

研究の現状と展望


井上先生:現在は、国内に存在する病原体のうち厚労省のリストに存在する約50%の病原体の検査系が完成しています。感度や迅速性に改善の余地がある病原体もあるのが現状です。

将来の展望は2−3年程度を目安に厚労省のリストの100%の病原体の検査系を確立するとともに、確立済みの検査系の感度や迅速性を改善することです。その後、並行して関係各所と協調して実際に使われるブタ膵臓の検査を行い、検査系の微調整や指定病原体の絞り込みを行います。そして2025年の移植実現を目指します。

 

質疑応答


参加者も先端研究の研究者へ直接質問ができる機会とあり、早速手があがりました。

参加者:2025年にバイオ人工膵島移植が日本でできるというのは患者としては衝撃的でした。一患者としてはどの手法であっても自分に合うものを使いたいという思いがあるのですが、他の手法と比べてバイオ人工膵島移植についてはどのようにお考えですか?

井上先生:1つの選択肢にバイオ人工膵島移植がなれば良いと思っています。選択肢を作った上で患者さんが選んでいただけたらいいと思います。

理事長:選択肢がないと選択することはできません。医療として使えるレベル、手が届く費用、身体への負担を考えた時にどれを選択するのかという選択肢ができるということが大切です。

2004年にこの京都で初めて膵島移植が行われました。これは我々にとって記念すべき瞬間でした。この時はドナーから膵島細胞を取り出して、患者さんに移植しました。また他にも生体膵島移植も世界中で1例のみ日本で行われています。これは生きたお母さんから膵臓を半分切り取って娘さんに膵島移植しています。これがきっかけとなり、我々は「1型糖尿病研究基金」を立ち上げ、現在は日本でのバイオ人工膵島移植に力を入れて助成しています。
将来的には自家移植(自分の細胞を使った自分への移植)が可能になると信じています。その前の段階として、バイオ人工膵島のように異種移植(他の動物からヒトへの移植)や他家移植(自分以外のヒトからヒトへの移植)があると思ってください。

参加者:外来のもの(自分以外の細胞)を入れるリスクについてはどのようにお考えですか?

井上先生:機械だとどうしても壊れてしまうリスクがあり、メンテナンスの問題もあります。ブタからヒト、ヒトからヒトで考えると場合によってはブタからヒトの方が安心なこともあると思います。その理由は、ブタの場合だと今日見ていただいたように生まれたときから管理をして、多くの時間をかけて各検体の詳細な安全性チェックが行えるからです。ヒトの場合だとドナーからの提供となる為、ここまでの時間をかけられないこともありますし、ヒトの病原体はヒトに容易に感染してしまいます。ですから、安全性が、ブタからヒトの方がヒトからヒトに比べて劣るということは無いと思います。

井上先生と理事長に参加者からの質問にご回答をいただき、研究室訪問を終えました。

 

編集後記


筆者は、リブレという血糖測定器を使ってまだ1年ほどですが、初めてリブレのことを知った時は衝撃的でした。今回バイオ人工膵島移植について学び、2025年に実現が近づいていることを体感し、再度衝撃を感じるとともに大変嬉しく思いました。もっと多くの人にこのような先進医療について知っていただきたいと思い、今回ボランティアに応募させていただきましたが、自分自身のためになる素晴らしい機会でした。何となくブタという異種移植に恐怖を感じておりましたが、今回の研究室訪問を通じてブタへの恐怖も無くなりました。ぜひ実用化された際には試してみたいという気持ちになりました。研究者の皆様が根治に向けて頑張っていただいているので、これからも自分の病気と前向きに付き合っていきたいと思います。

(鈴木 葵)

 

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