東大医科学研究所研究チーム、iPS膵臓で糖尿病マウスの治療に世界で初めて成功

LINEで送る
Pocket

権威ある科学誌 『ネイチャ ー電子版』 に掲載、 「1型糖尿病研究基金」 による助成を受けた研究とは

東京大学医科学研究所の中内啓光教授らのチームが、人工多能性幹細胞 (iPS細胞) を使ってラットの体内でマウスの膵臓を再生し、移植して糖尿病のマウスを治療することに成功しました。この成果は26日、英科学誌 『ネイチャー 電子版』 に論文が掲載されたことで一躍ニュースとなっています。なお、異種の体内で再生した臓器で治療効果を確認したのは世界で初めてのことになります。『ネイチャー』 と言えば世界的に極めて高い権威のある学術雑誌の一つとされ、世界中の研究者を読者としています。ゆえにその影響力は甚大で高い “インパクトファクター” を持つとされています。

さらにこの研究は、1型糖尿病の根絶を目指す日本IDDMネットワークによる1型糖尿病研究基金からも研究助成されたテーマであり、関係者にとっては治療法確立に向けた確かな前進として手ごたえをもって受け止められています。

012701
(画像出典:国立研究開発法人 科学技術振興機構 プレスリリースより)

中内教授らのグループでは、これまでも多能性幹細胞のキメラ形成能を利用した 「胚盤胞補完法」 において膵臓が欠損したマウスの体内に、ラット多能性幹細胞由来の膵臓を作製することに成功していました。しかし、作製した膵臓はマウスの膵臓と同程度の小さなサイズであり、体が10倍程も大きい糖尿病モデルラットに移植し、治療するのに十分な量の膵島を得ることができませんでした。また、胚盤胞補完法を利用して異種動物体内に作製した臓器に含まれる血管や神経などの支持組織はキメラ状態 (異種動物の細胞が混在している状態)であることを確認していましたが、これらの異種細胞が組織移植時にどのように影響するかも検討されていなかったものです。

本研究における成果について産経ニュースがわかりやすく解説しているので引用致します。

チームは、膵臓を作れないように遺伝子操作したラットの胚盤胞(受精後3~4日の受精卵)にマウスのiPS細胞を注入し、マウスの膵臓を持つラットを作製。この膵臓からインスリンを分泌する膵島(すいとう)という組織を分離し、糖尿病のマウスに移植した。その結果、血糖値は約1年間にわたり正常で治療効果を確認。拒絶反応を抑える免疫抑制剤は、術後5日間投与しただけで、その後は不要だった。胚性幹細胞(ES細胞)でも同様の実験に成功した。(出典:産経ニュースより)

 

先進的糖尿病治療における具体的かつ明快な前進に各方面からの期待が高まる

研究グループの発表によるとその後の拒絶反応も見られず、異種動物体内で作製された多能性幹細胞由来の膵島は、移植後も正常に機能を発揮、異種由来の微小な支持細胞は膵島の体への定着や機能発揮に影響しないことが明らかとなりました。また、移植を受けたマウスには腫瘍形成などの異常は一切観察されなかったとしています。

中内教授らのグループは胚盤胞補完法により異種動物体内にヒトの臓器を作製し、移植治療に用いることを目指していますが、今回の成果によって異種キメラ動物体内で作製した臓器を移植した際の有効性および安全性が確認されたことになります。なお、ヒトの iPS 細胞を胚に入れて動物を作ることは国の指針で禁止されています。チームはヒトの臓器をブタの体内などで作製し移植する再生医療を目指しており、実現に向け大きく歩を進めたことになります。

 

■ 出典、参考

国立研究開発法人 科学技術振興機構 プレスリリース

株式会社産業経済新聞社 産経ニュース

 

 

Related posts:

LINEで送る
Pocket