「治らない」から「治る」へ―認定特定非営利活動法人「日本IDDMネットワーク」は2025年の1型糖尿病根治を目指して毎年行っている「サイエンスフォーラム」を今年も開催いたしました。
2019年6月1日、会場となった国立オリンピック記念青少年総合センター(東京)には、患者・家族のをはじめ150名を超える参加者が集まりました。うち患者・家族の来場者は63名。ボランティアとして参加して下さった患者さんも多く、他に医療関係者やメディア関係者の姿も見えました。
メイン講演は前回と同様に、膵島移植プロジェクトに関する現状報告と今後の展望について研究者の方々にお話をしていただきました。少しずつ、しかし確実に前進している最新の研究報告に、場内では熱心にメモを取る来場者の姿が数多く見られました。
午後から行われた「サイエンスカフェ」は、8つのテーマで会場内にブースを設け、患者たちと語り合う新しい試み。1型糖尿病に関する先進的治療や最前線の研究について研究者から直に説明してもらえるとあって、来場者は熱心に耳を傾け、様々な質問が飛び交い、大いに盛り上がっていました。
いつもの通り、日本IDDMネットワークの井上龍夫理事長の(ちょっと長めの(^0^))挨拶から始まった当日の様子を順に御紹介します。
◎健康・医療分野の政策推進について~文科省・仙波秀志課長
冒頭にあたり御来席いただきました文部科学省・研究振興局ライフサイエンス課の仙波秀志課長から御挨拶を賜り、また健康・医療戦略推進本部によって省庁横断的に進められている「健康・医療戦略」及びそれに基づく文部科学省の研究開発プロジェクトや、動物体内での再生医療用のヒト臓器作成を可能にする「特定胚指針」の改正の概要などについての説明をいただきました。9つの各省連携プロジェクトを「5つの横断型」と「4つの疾患領域対応型」に整理し、相互に効果的な取り組みが出来るようにすることで、医療の質の向上を目指しており、患者・家族はもちろん、研究者や支援活動を続ける日本IDDMネットワークにとっても非常に心強いバックアップとなっています。本フォーラムも文部科学省、厚生労働省の後援をいただいています。
◎膵島移植&バイオ人工膵島移植プロジェクトの現状と今後
1型糖尿病の根治実現に最も近いと言われているバイオ人工膵島移植は、まだ解決すべき課題がいくつか残されたままです。それらはひとつの研究機関だけで解決できるものではなく、各研究機関が協力し合うプロジェクトとして稼働し、臨床応用を目指しています。日本IDDMネットワークはこのプロジェクトのために、1型糖尿病患者・家族や支援者の皆様からいただいた1型糖尿病研究基金へのご寄付と、佐賀県庁へのふるさと納税を財源とし4つの研究課題に総額1億6400万円の研究助成を行ってきました。ヒトに移植可能な無菌ブタの飼育、感染症検査方法の確立、移植方法の確立など、それぞれの研究がどこまで進んでいるのか、今後の見通しはどうなっているのか、研究者の方々にお話していただきました。
小玉正太 福岡大学基盤研究機関 再生医学研究所 所長
※膵島移植の現状と今後
≪講演概要≫膵・膵島移植は、無自覚低血糖発作や重症低血糖を起こし極めてQOLの低い1型糖尿病患者に対し行われる治療法です。開腹手術が不要な膵島移植は臨床試験段階であり保険が適用されません。国内では2004~2007年に18例34回の膵島移植が行われました。2012年からは新しい手法で臨床試験が進められ、北米での類似した試験では良好な移植後効果が示されています。
霜田雅之 国立国際医療研究センター研究所 膵島移植プロジェクト長
※細胞加工施設(CPC)の建設とバイオ人工膵島の今後
≪講演概要≫いまだ日本では実現していない、ブタ膵島を用いた「バイオ人工膵島」の1型糖尿病患者への移植治療を目指しています。ブタ膵島は特殊なカプセルに封入して免疫細胞の攻撃を回避する方法を採用する方針です。また、より実現化が早いと考える新生児ブタ膵島のインスリン分泌能を高める方法の研究を行っています。さらに本研究に関連して臨床応用時に必要な特殊な細胞加工施設の助成を日本IDDMネットワークから頂き、建設を進め、建物が完成しました。
長嶋比呂志 明治大学バイオリソース研究国際インスティテュート 所長
※無菌ブタ作成の現状と今後
≪講演概要≫バイオ人工膵島を用いた異種膵島移植の臨床応用には、高品質の衛生的なブタを経済的に生産できる体制が不可欠です。海外における異種膵島移植の研究開発例では、膵臓ドナーブタの飼育のために高額な施設を建築し、高い衛生条件を満たしています。これに対し我々は、U-iR法という新しい方法を開発し、医療応用に求められる衛生条件を満たしたブタの低コストな供給に目途をつけました。
井上亮 京都府立大学大学院生命環境科学研究科動物機能学研究室 講師
※ウイルス感染検査技術の原稿と今後
≪講演概要≫医療用ブタからの細胞・臓器移植が厚生労働省に容認され、バイオ人工膵島の移植実現が近づきました。移植に使われるバイオ人工膵島に感染症のリスクが無いかは移植を受けられる方、そのご家族にとってとても重要なことだと思います。厚生労働省の指針では、移植にあたってバイオ人工膵島が指定する約90種類の病原体に感染していないかを確認すべきとしています。現在、この90種類の病原体を含め、バイオ人工膵島の感染症のリスクをできるだけ感度良く検査するための方法を開発しています。
◎第2回山田和彦賞受賞者発表と感謝状贈呈式
続いて、高額寄付などで多大な貢献をされた個人・企業の方々への感謝状贈呈式を行いました。受賞者と貢献内容は以下の通りです。お昼休みを挟んで午後の部は、井上龍夫理事長による山田和彦賞の発表から始まりました。第1回の山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長に続く第2回目となる今回の受賞者(副賞1000万円)は、制御性T細胞の発見など免疫学の分野で素晴らしい功績をあげられた坂口志文大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学・特任教授、栄誉教授に決定しました。授賞式と受賞記念講演会は2019年9月16日に開催します。
- 栄智之様
- 日本メドトロニック株式会社広報部 ダイレクター 大道亮子様、同ダイアビーティス事業部 音部志帆様
- ソフトバンク株式会社CSR統括部 統括部長 池田昌人様、白戸和美様、正木博文様(つながる募金による寄付)
- ヤフー株式会社Yahoo!ネット募金サービスマネージャー 小田礼子様(Yahoo!ネット募金による寄付)
▼ソフトバンク株式会社「つながる募金」
https://ent.mb.softbank.jp/apl/charity/sp/careerSelect.jsp?corp=047
▼ヤフー株式会社「Yahoo!ネット募金」
https://donation.yahoo.co.jp/detail/5109001/
◎サイエンスカフェ~研究者と一緒に未来を創る
15時10分からは自由な意見交換・交流の時間として「サイエンスカフェ」が始まりました。研究者の方々がそれぞれパネルを用意し、1型糖尿病に関する先進的治療など、それぞれのテーマをわかりやすく解説、来場者の皆さんがそれぞれ関心のあるブースを見て歩き、研究者に直接、質問をぶつけるなど、会場は活気にあふれていました。
今回のフォーラムで初めて採用された「サイエンスカフェ」方式による交流の場は、研究者の方々にも大変好評だったようです。
また、ボランティアとして参加してくれた医学生は、「患者さんが研究者の方々とお話ししている姿をみて、患者さんの研究に対する想いや望みを知ることができましたし、私自身も患者側の視点から物事を考えるきっかけとなりました。研究に携わる身として、自分の研究成果がどう還元されるのかを患者目線で考えることは重要ですね」と話し、研究者と患者の交流の大切さを改めて感じているようでした。
★サイエンスカフェ・研究者とテーマ一覧
テーマ① バイオ人工膵島移植の実現
霜田雅之(しもだまさゆき)国立国際医療研究センター研究所 膵島移植プロジェクト長
小玉正太(こだましょうた)福岡大学 基盤研究機関 再生医学研究所 所長
長嶋比呂志(ながしまひろし)明治大学 バイオリソース研究 国際インスティテュート 所長
井上亮(いのうえりょう)京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 動物機能学研究室 講師
テーマ② 糖尿病原因ウイルスに対するワクチン開発
永淵正法(ながふちせいほう)
佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科 特任教授
テーマ③ 試験管の中でどんな細胞でも、インスリンも作れるかもしれない技術の開発
松本征仁(まつもとまさひと)
東京医科歯科大学 准教授
順天堂大学大学院医学研究科 客員准教授
テーマ④ 自己免疫によるインスリン分泌の低下を止めることはできるのか?
中條大輔(ちゅうじょうだいすけ)
富山大学付属病院臨床研究管理センター 特命教授
テーマ⑤ ゲノム編集技術を用いた自然発症1型糖尿病モデルブタの開発
谷原史倫(たにはらふみのり)
徳島大学大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域
生物生産系生物資源生産科学分野 特任助教
テーマ⑥ 胎盤から採取される幹細胞を用いて1型糖尿病根治を目指す
戸子台和哲(とこだいかずあき)
東北大学消化器外科学分野 助教
テーマ⑦ 自然免疫系を標的とした1型糖尿病の治療法の開発
福井竜太郎(ふくいりゅうたろう)
東京大学医科学研究所感染遺伝学分野 助教
テーマ⑧ 針を刺す必要がない血糖値センサーの開発
山川考一(やまかわこういち)
ライトタッチテクノロジー株式会社 代表取締役社長
量子科学技術研究開発機構レーザー医療応用研究グループ リーダー
◎展示&物販ブース
今回のフォーラムでも1型糖尿病に関する各種デバイスなどの展示ブースが設けられました。また、『1型糖尿病[IDDM]お役立ちマニュアル』、1型糖尿病の絵本『はなちゃんとびょうきのおはなし』をはじめとする日本IDDMネットワークの出版物の物販も行いました。
【出展企業一覧】※順不同
アボットジャパン株式会社 | グルコースモニタリングシステム及び患者向け資料 |
日本イーライリリー株式会社 | 患者向け疾患啓発資料等 |
日本メドトロニック株式会社 | SAP、インスリンポンプ、リアルタイムCGM |
株式会社ケーツー | インスリン自己注射用機器の専用収納ケース |
ニプロ株式会社 | SMBG機器・健康管理アプリ |
ロシュDCジャパン株式会社 | 自己検査用グルコース測定器及び関連製品一式 |
株式会社トラストバンク | 1型糖尿病根絶を支援する「ふるさと納税(GCF)」の紹介 |
株式会社トラストバンク様には、展示だけでなく、昼食休憩前の時間を利用して「15分でわかる!ふるさと納税」と題し寄付の手順をわかりやすく解説していただきました。
1時間以上にわたって続いたサイエンスカフェも終え、日本IDDMネットワークの大村詠一専務理事による閉会の挨拶で幕を閉じたサイエンスフォーラム2019。あっという間の一日でした。
幅広い分野の研究者たちが1型糖尿病をキーワードに様々な角度から研究を進めていることがわかり、患者や家族にとっても大きな期待と希望が膨らんだ一日だったと思います。こうした地道な研究が相乗的、複合的に組み合わさり、発展していけば、いずれ必ず1型糖尿病の根治が実現すると確信が持てる気がしました。小さなお子さんを持つ親御さんたちが、子供の将来に対する不安が少しでも払拭できて、明るい未来像を描くことができるようになれば、今回のフォーラムも大きな意味を持つのではないでしょうか。終了後の会場撤収作業をするボランティアの動きも心なしか軽やかで、心地よい疲労感と満足感に満たされ、すべて終わった後に飲んだビールは格別でした。(文責・塩原 晃)
協賛および広告協賛企業(順不同)
(協賛)
FVジャパン株式会社
カバヤ食品株式会社
株式会社クラレ
ファイザー株式会社
株式会社マザーレンカ
三井製糖株式会社
(広告協賛)
アボットジャパン株式会社
日本イーライリリー株式会社
日本メドトロニック株式会社
サノフィ株式会社
ノボ ノルディスク ファーマ株式会社