病気と共に生きる人であれば、病気についての理解を深める姿勢が、長い人生のなかでは大切になってきます。疾患そのものについて、自分の病状に合った適切な治療法について、そして、リスクについて知ることも、自分の健康を積極的に守る意味で欠かせません。糖尿病には、多くの合併症リスクがありますが、まず、リスクを 「知る」 こと、次にそのリスクを 「予防する」 知識や情報を持つことで、自分自身のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を向上させていくことができるのです。あらかじめリスクに対応する備えを準備することができれば、過度な心配は不要です。
疫学調査実績の長い 「久山町研究」 で糖尿病と脳萎縮の関連性を調査
米医学誌に、糖尿病と海馬の関連性が発表されました。※糖尿病の種類やHbA1cなどの血糖コントロールの程度等についての詳細は、確認できておりません。
九州大学大学院の研究グループが行っている「久山町研究」によると、糖尿病患者では脳全体が萎縮しており、特に「海馬」という記憶や空間学習能力に関わる部分で顕著で、糖尿病にかかっている期間が長いほどその傾向が強まっていたという。詳細は、米医学誌「Diabetes Care」(2016; 39: 1543-1549)に掲載されている。(出典:健康百科 by メディカルトリビューン)
まず、久山町研究とは、1961年に生活習慣病に関する疫学研究を目的とし、九州大学と久山町が共同事業として開始したもの。久山町は人口およそ8,400人ですが、住民は全国平均とほぼ同じ年齢、職業分布を持っているため、偏りがほとんどないとされる平均的日本人集団と目されています。そうした住民を対象に、これまで脳卒中や心血管疾患などの疫学調査を実施してきた実績があります。
今回の研究では、65歳以上の地域住民1,238人を対象に、磁気共鳴画像 (MRI) 検査を使って脳の容積を測定のうえ、萎縮の度合いと糖尿病との関連を調べました。
高血糖および糖尿病歴の長さがリスク因子とされる
その結果、糖尿病患者は糖尿病でない人に比べ、脳全体の萎縮が進んでいるという事実が示されました。また、そのなかでも特に海馬での萎縮が進行していたとのこと。この傾向は、血糖値 (経口糖負荷試験2時間値) が高い人ほど顕著であり、ただし、空腹時血糖値との関連は見られなかったそうです。
この研究結果でさらに注目される点が、「糖尿病にかかっている期間が長い人ほど海馬の萎縮が進んでいる」 という事実です。中年で糖尿病と診断された人は、糖尿病でない人や高齢になって糖尿病と診断された人に比べて海馬の萎縮の程度がより強いことが示唆されています。こうしたことから、研究グループでは食後の高血糖や糖尿病歴の長さを脳萎縮のリスクとしています。
それでは、脳萎縮を防ぐためにできる対策を考えてみましょう。
アメリカのボストン大学などによる研究チームでは、「運動によって脳の萎縮や認知機能の低下を食い止められる可能性がある」 ことを明らかにしています。特に、中年期での運動が重要であり、血流を促進することで酸素を多く脳へ届けることが効果につながるようです。
また、40代での運動実績が実に、20年後の脳萎縮へ影響するとの見方もあり、さまざまな面から見ても日常的な運動習慣の大切さがわかります。
■ 参考
株式会社メディカルトリビューン 健康百科 by メディカルトリビューン
タイムワーナー社 CNN.co.jp
九州大学大学院 久山町研究室