バイオ人工膵島移植実現に向けて、その進捗状況を、この分野の第一人者である松本慎一先生(日本初の膵島移植医で医療用ブタ開発のために自ら法人まで立ち上げられました)より毎月報告していただいています。
第5回は、今後の医療用ブタを用いた膵島移植の未来についてです。
バイオ人工膵島移植の進捗(第5回)
2025年6月14日に開催された日本IDDMネットワーク主催の「サイエンスオーラム in 神戸」で、2025年からの私の予想を発表しましたので、皆様にもお伝えします。
医療用ブタを用いた膵島移植は、免疫隔離カプセルを利用し免疫抑制剤を使用しない「バイオ人工膵島移植」と免疫抑制剤を併用し肝臓内に移植する異種膵島移植の2種類が海外で実施されてきました。
2025年6月時点で、イリノイ大学病院がバイオ人工膵島移植の患者募集開始を発表しています。
イリノイ大学病院は、世界で唯一ヒト膵島の薬事承認を得たことで有名な病院です。ヨーロッパや日本を含む多くの国で、膵島移植は血糖値の不安定な1型糖尿病患者の治療として認められていますが、膵島自身を薬として承認されたのは、イリノイ大学だけなのです。このため、イリノイ大学での治験(人への効き目や安全性を確認する試験)登録開始は、意義があると考えています。
免疫抑制剤を併用した異種膵島移植は、中国のHunan Xenolife Biotechnology Co, Ltd社が臨床治療として行っています。
受けたい患者さんがすべて受けられるようにということを目指す今後の10年で、一番重要なのは、医療用ブタ量産技術と考えています。このため、私自身、今一番、医療用ブタ開発に力を入れています。十分なドナーブタが確保できれば、多くの臨床研究(人への実用化可能性を探る研究)を支えることができます。たとえば、カプセル化膵島移植は、カプセルの改良、移植部位の研究が進んでいます。より効率が良く、より簡便な移植を目指します。
免疫抑制剤を併用する膵島異種移植は、より安全で有効な免疫抑制療法の研究が進んでいます。
安全性の高いバイオ人工膵島移植はこの10年で効果がさらに向上すると予想し、効果が高いとされる門脈に免疫抑制剤を併用して移植する異種膵島移植はこの10年でより安全性の高い免疫抑制療法ができると予想しました。医療用ブタの量産技術ができれば、カプセル化バイオ人工膵島移植あるいは免疫抑制剤を併用した異種膵島移植のどちらが自分に相応しいか、選択肢がある将来を予想しています。
移植を受けたい患者さんがすべて受けられるよう私たちのこの取り組みへの支援を引き続きお願い申し上げます。
◇松本慎一先生連載記事
▶ 【第1回】バイオ人工膵島移植の進捗状況(松本慎一先生)
▶ 【第2回】バイオ人工膵島移植の進捗状況(松本慎一先生)
▶ 【第3回】バイオ人工膵島移植の進捗状況(松本慎一先生)
▶ 【第4回】バイオ人工膵島移植の進捗状況(松本慎一先生)
▶ 【第5回】バイオ人工膵島移植の進捗状況(松本慎一先生)
バイオ人工膵島移植の研究を続ける国立健康危機管理機構の霜田雅之先生にも、毎月報告していただいております。合わせてご覧ください。
◆霜田雅之先生連載記事
▶ <第1回>バイオ人工膵島移植の進捗状況(霜田雅之先生)
▶ <第2回>バイオ人工膵島移植の進捗状況(霜田雅之先生)
▶ <第3回>バイオ人工膵島移植の進捗状況(霜田雅之先生)
▶ <第4回>バイオ人工膵島移植の進捗状況(霜田雅之先生)

名前:松本慎一
神戸大学大学院医学研究科 客員教授
日本IDDMネットワーク理事
日本初の膵島移植医