「動物性集合胚」とは?
皆さんは「動物性集合胚」という言葉を聞いたことがありますか?
まだまだ耳新しい言葉ですが、これはヒト以外の動物の胚(受精卵)の中にヒトの細胞を注入したものをいいます。この「動物性集合胚」を動物の母胎(子宮)内に移植することがこれまでは法律で禁止されていましたが、その法律(指針)が今年3月1日に改正され、動物性集合胚の母胎内移植の実験が日本で可能になったのです。
※「特定胚の取扱いに関する指針」等の改定内容はこちらをご覧ください。
「動物性集合胚」移植は、どのような意味があるの?
皆さんもよくご存知のヒトのiPS細胞は、京都大学の山中教授により2007年に世界で初めて作製され、病気で失った臓器やその機能を回復させる画期的な再生医療への道を拓きました。1型糖尿病は膵臓の重要な機能である「インスリン」を作る機能を失っている病気です。もし1型糖尿病患者がもう一度その機能を取り戻せたらそれはすばらしい話です。iPS細胞による再生医療には1型糖尿病をはじめ多くの難病患者が新しい治療実現への期待を寄せています。
しかし現実はそう簡単ではありません。がん化などの危険性を排除し、狙った細胞や組織へとiPS細胞を導くことは簡単なことではなく、特に立体的で血管や神経を伴った膵臓のような臓器を作製(再生)することは難しく、実現までのみちのりはまだまだ長いと言われています。
動物の体の中でヒトの臓器を作る?
そこに驚くような臓器作製技術が2010年に提案されました。それは試験管のような体外ではなく、動物の体の中でヒトの臓器を作製するという、それまで想像もつかなかったような研究です。この研究を提案し、マウスなどの小動物を使った実験でその可能性を示したのが東京大学医科学研究所の中内教授です。簡単に説明すると「マウス」の体内で、種の異なる動物である「ラット」の膵臓を作ることに成功したのです。この研究の詳細は私たちが行った研究室訪問の第一回目の記事として下記に掲載してありますので、こちらをご覧ください。
この技術を応用すれば、例えばヒトと同程度のサイズの膵臓を持つ「ブタ」の体内でヒトの膵臓を作ることができます。1型糖尿病患者の細胞からつくったiPS細胞を使えば、患者自身の膵臓を新しく作製することが可能になるわけです。この研究開発にはヒトのiPS細胞を入れたブタの受精卵をブタの母胎(子宮)内に戻して成長させるという研究が必須です。
この研究の障害になっていたのが、上記の「動物性集合胚」の取り扱いに関する法律(指針)でした。改正前の旧指針では「動物性集合胚」の母胎内移植が禁止されており、中内先生たちは日本で実験の実施が事実上不可能になっていました。中内先生は仕方なく米国で研究を続けています。米国をはじめ多くの外国ではそのような研究は認められているからです。
堂々と研究できるようになったのは、みなさんのおかげ
中内先生たちの研究をきっかけに、2013年頃から日本でも規制緩和について文部科学省ライフサイエンス課を中心に検討されてきました。動物とヒトの細胞が混ざるのですから、科学技術的な観点、安全性の検討はもちろん、生命倫理の観点も含めて専門家による委員会を繰り返し開催し、慎重に検討は進められました。この研究成果により1型糖尿病根治を期待する当事者(患者・家族)団体として、私たち日本IDDMネットワークの井上理事長が委員会で意見を述べ、さらに要望書や意見の提出を行ってきました。
その結果、3月1日、文部科学省は、「動物性集合胚」を動物の母胎内に移植することを禁止していた法律を改正し、公示・施行されました。まだまだいくつかの条件はありますが、日本での「動物性集合胚」の母胎内移植の実験が原則的に認められたのです。先日(3月下旬)東京都内の某講演会で、中内先生が井上理事長に
「ここまで長かったですけれど、ようやくこの規制緩和が実現し、堂々とこの研究が日本でも始められます。これは大きな第一歩です。日本IDDMネットワークさんたち患者・家族の皆さんたちの大きな後押しのおかげです。」
とうれしそうにおっしゃっていました。私たち日本IDDMネットワークは本研究課題にすでに4回の研究助成を行っております。
今回の規制緩和をきっかけにこの研究が加速され、一日でも早く実用的な医療になることを期待し、応援してまいりましょう。
※この研究を指定してご寄付いただけます。詳細はこちらをご覧ください。