金沢大学、同志社大学、筑波大学などの研究チームが米科学誌 『ネイチャー・メディシン電子版』 に、ある興味深い内容を発表しました。
運動療法を頑張っているのに効果が出ない。「セレノプロテインP」 が原因の一つと判明
中高年に多い2型糖尿病や脂肪肝などの患者が運動療法を行っても効果が上がらない場合があるのは、肝臓から分泌されるホルモンが原因の一つだと判明したのです。
このホルモンは金沢大の金子周一教授や篁俊成教授らが2010年に発見した「セレノプロテインP」。高齢者や2型糖尿病患者、脂肪肝患者で血中濃度が高い傾向があり、血糖値を上げる働きがある。(出典:日刊工業新聞)
身体活動の低下は肥満や2型糖尿病、高血圧、脂肪肝といったさまざまな生活習慣病につながることが知られていて、運動がこれらの疾患の予防や治療に効果的として定期的な運動が推奨されています。しかし、運動療法の効果には個人でかなりの差があることもわかっており、運動を行ってもなかなか効果が出ない人がいることが報告されていたのです。セレノプロテインPは、肝臓から分泌されるホルモン 「ヘパトカイン」 の一つ。金沢大学の医薬保健研究域医学系の金子 周一教授、篁 俊成教授および御簾 博文准教授らが運動を行ってもその効果を無効にする? 「運動抵抗性」 という病態を起こしていることを発見しました。
セレノプロテインPを生まれつき持たないマウスでは,同じ強さ・同じ時間の運動療法を行っても,通常のマウスと比べて運動のさまざまな効果が倍増することが分かりました。さらに,健常者を対象にした臨床研究では,血液中のセレノプロテインPの濃度が高かった人は,低かった人に比べて,8週間の有酸素運動トレーニングをしても運動の効果が向上しにくいことが分かりました。(出典:金沢大学Webサイト)
それにより、患者のセレノプロテインPの血中濃度を調べれば運動療法の効果を予測することも可能となります。
活性酸素は増えすぎても少なすぎてもダメ!効果的な治療法の確立へ期待
同志社大学 生命医科学研究科 システム生命科学研究室では、セレノプロテインPと運動障害についての研究を進めていました。さらにセレノプロテインPが糖尿病患者で増加し、糖尿病を悪化することもわかってきたのです。血糖値の維持に欠かせないインスリンの働きには微量の活性酸素が必要と考えられており、セレノプロテインPが増えすぎることで、活性酸素が減り、インスリンの効果が低下するとの予測から研究を進めてきました。
今後はセレノプロテインPの血中濃度測定や、セレノプロテインPの取り込みを抑制する糖尿病治療薬の開発も進展していくことが期待されます。
ストレスを抱えやすい血糖コントロール。運動を頑張っているのに思うような効果が出ずストレスを抱えやすかった方には、理由が判明したことで別の対処法を見出すことができます。
■ 出典
科学技術振興機構 金沢大学 同志社大学 筑波大学 共同発表資料
金沢大学 Webサイト
同志社大学 Webサイト
株式会社日刊工業新聞社 日刊工業新聞