食事療法を実践するなかで、「油脂は極力避ける」 というのが定説となってきました。しかし、最近では 「油全体が悪いのではない」 という認識も進み、体によい、摂るべき油脂も見直されてきました。
細胞の元気を支えることで身体全体に作用する油脂
油は栄養成分を体内に届けるサポーターです。たとえばビタミンCは水溶性ですが、ビタミンA、D、Eは油に溶け込む脂溶性成分です。そのため、脂肪酸と一緒に摂取することで脂溶性ビタミンの吸収を助け、体内に吸収されやすくします。また、身体を構成するおよそ60兆個とも言われる細胞は細胞膜でおおわれていますが、この細胞膜を構成するのも脂肪酸です。主にリン脂質でできていて、柔軟性や細胞間のやり取りを助けるため新陳代謝を促進します。身体のなかでもっとも脂質を必要とするのが脳で、脳組織のおよそ半分以上がリン脂質やDHAといった脂質で構成されています。脳機能に影響するとされるDHAは加齢によって減少するため、加齢による記憶力の衰えにも因果関係があるとも言われます。つまり、身体の健康にとって油脂が不可欠であるということになります。
しかし、ここで重要なのが 「身体に良い油脂」 を摂るということです。どういったものが良い油なのでしょうか。
その前に油には 「飽和脂肪酸」 と「不飽和脂肪酸」 とがあり、前者には主に肉類、バター、乳製品などに多く含まれまれ、これまでの考えでは一様にこれらを 「健康に悪い」 とくくってきました。その弊害で肉類を徹底して避けるなどの食事法が一部で流行したり、いまだにダイエットの敵として見なされがちです。しかし、長寿で健康を保つ高齢者の多くが肉類を積極的に食していることが最近ではよく知られるなど、健康に欠かせない栄養成分を多くもつ面があります。その上、「健康に良い油」 とされる後者の不飽和脂肪酸にはオメガ3、オメガ6といった必須脂肪酸が代表的ですが、牛肉に含まれるステアリン酸にはHDLの働きを促進し、LDLを減らすものも見つかっているのです。つまり、油脂をいずれかに分類してしまって摂取しないことは本当にもったいないことなのです。
食品類で油脂を分けるともったいない!結局は偏りなく摂取することが正解
飽和脂肪酸が貯蔵脂肪として体内で使用されるのは、その構造に理由があります。脂肪酸の骨格となる炭素がすべて飽和結合で満たされたのが飽和脂肪酸で、化学的に安定した物質となっているからです。このことですべての飽和脂肪酸が脂肪になりやすいとされてきたのでしょう。反対に、不飽和脂肪酸のうち二重結合を2個以上持つ多価不飽和脂肪酸は化学的にとても不安定。そのため貯蔵には向かず、光や空気にも弱く酸化しやすい油脂なのです。
不飽和脂肪酸のリノール酸や αリノレン酸は体内でつくりだすことができませんので、食事などで摂取しないとなりません。αリノレン酸は一部が体内でEPAやDHAに変化し、これらは魚油としても知られていますが、血栓の予防や視力にも関係する油です。それはDHAが体内では脳や神経、網膜系に多いとされることと関係しています。
亜麻仁油やオリーブオイル、ココナツオイルなどは良い油として多くの方が知るところですが、これまで美味しいけれど悪者扱いだったバターについては、見解が分かれるところでありますが最近興味深い事実もわかってきました。海外ではバターによりわずかながらですが2型糖尿病発症リスクが減される可能性があるという研究結果も出ていたり、スウェーデンのルンド大学糖尿病センターの研究では、“動物性脂肪のなかでも乳製品に含まれる脂肪分は糖尿病の予防に有用であるようだ” という成果も出ています。
対して健康を損なう 「悪い油」 として知られるのがトランス脂肪酸。アメリカのFDA(食品医薬品局)は2018年までに食品へのトランス脂肪酸の使用を全廃すると通達しています。食品ではマーガリンやショートニング、菓子パン、ドーナツなどの洋菓子に多く含まれ、摂りすぎると心臓病リスクや悪玉コレステロールの増加に影響します。FDAはさらに 「食用として一般に安全とは言えない」 とまで言っており、「バターよりマーガリンの方が脂肪分が少なくてカロリーが低い」 とされてきた認識をくつがえすほど。日本ではアメリカのように国を挙げての規制はしていませんが、食品メーカーや各家庭でトランス脂肪酸を避ける動きは徐々に始まっています。
少なくとも適度な量の 「良い油」 は健康的な身体を保つのに欠かせない事実に着目し、極端に走らずバランスのとれた食生活を大切にしましょう。
■ 参考、出典
公益財団法人日本食肉消費総合センター Webサイト
株式会社創新社 糖尿病ネットワーク
株式会社ケアネット ケアネット
株式会社日経BP 日経ウーマンオンライン
株式会社日本経済新聞社 日本経済新聞
サントリーホールディングス株式会社 サントリー健康情報レポート