1型糖尿病患者の妊娠・出産体験談

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初めまして。日本IDDMネットワーク職員の中新井美波(なかあらいみなみ)です。
現在は、3人の子どものママで、さらにお腹の中に双子がいる妊婦でもあります。
妊娠・出産は、誰にとっても人生の大きなイベントですが、私たち1型糖尿病患者にとっては、さらに血糖値のコントロールという問題もあり、心配されている方も多いと思います。
そこで、今回は、1型糖尿病を持ちながらもうすぐ5人のママになる中新井美波の妊娠・出産体験談を書きました。妊娠・出産は人それぞれ、こんな人もいるんだなと参考にしてもらえたら嬉しいです。

まずは自己紹介から


私は12歳の誕生日の3日後に1型糖尿病と診断されました。その他、25歳の冬に虫歯の治療から、感染性心内膜炎となり、後遺症で重度の心臓弁膜症も患っています。
1型糖尿病を発症した当時は「一生治りません」という主治医の言葉が頭の中で反芻しましたが、他人事のように感じ、泣くこともなく、ただ目の前の180度変わった生活に”遅れないように着いていく”ことに必死だったように感じます。
でも、入院中にもらったノンフィクションの本「ソウル・サーファー」に出てくる片腕のサーファー「ベサニーハミルトン」を知ってからは、「誰かの希望を見出すキッカケになれるなら1型糖尿病になった価値はある」と、1型糖尿病を世界に伝えることを目標に生きてきました。
当時は「運動会に参加することもだめ」と言われていましたが、陸上競技中長距離種目(800m~5000m、3000m障害)に10年打ち込みました。その結果、中学時に全国4位、高校時に高校駅伝準優勝、大学時に都道府県駅伝で区間賞区間記録樹立などの数々の成績を残すことが出来ました。
私が活躍することで「1型糖尿病の研究が進む」、「偏見が無くなるかもしれない」、という想いで1型糖尿病のこともメディアに公表して走ってきました。引退してからは、全員が1型糖尿病「1-GATA」というバンドを組んで「1型糖尿病でもなんでもできる」ということを音に乗せて歌を歌っています。

はじめての妊娠

私が長女、椿を妊娠したのは26歳の冬でした。妊娠初期のHbA1cの値は7.2%。1-GATAの活動で日本中を回ってライブをしている最中でした。それまで、ずっとインスリン注射でコントロールしてきましたが、当時の主治医のアドバイスで妊娠判明後、はじめての診察後の13週からインスリンポンプで初めてコントロールすることになりました。
初めてのインスリンポンプは、ずっと身体にくっついている感覚に慣れず、ふいに落としてしまったことによりカニューレ(管)がその衝撃で外れ流血したりと煩わしいことが多々ありました。しかし、インスリンポンプのおかげで妊娠後期にはHbA1cは5.8%まで下がっていました。また私の場合、少しでも医療費を抑えたかったので、主治医と相談し妊娠中はSAP(リアルタイムCGM*と連動したインスリポンプ療法)ではなく、CSII(インスリンポンプ療法)とリブレ(持続血糖測定システム)でコントロールしました。その後も毎回、妊娠がわかってから初めての診察をした13週頃にインスリン注射からインスリンポンプに変更しています。

CGM*:皮下に刺した細いセンサーにより皮下の間質液中の糖濃度を持続的に測定することで1日の血糖変動を知ることが出来る医療機器のこと。

2人目~現在の4度目の妊娠まで


妊娠初期~中期
初期は一人一人状況も環境も違いましたが、今回の4度目の妊娠は双子だからか、つわりが一番ひどく、ベーサルのインスリンと補正のみで過ごす日もありました。「食べられる時に食べられるもの」を食べていたので、しばらくは糖質も気にせずアイスとフルーツばかりを好んで食べていました。
3人目までの妊娠初期~中期の運動は、もともとハードに動いていたこともあり、子宮口の長さがしっかりあると診察され、適度な運動OKとされていたので、愛犬との散歩を長めにしたり、家事を必死にこなして汗をかくようにしたり、エスカレーターやエレベーターを使わず、階段を使用するなど、少しでも動けるチャンスがあれば動くようにしていました。動くことでインスリン量も減らせますし、体重の増加をおさえることもできます。もちろんお腹が張るときは無理せず休憩し、妊娠中期まではライブ活動や仕事もこなして、日々の生活はストレスのかからないように過ごしていました。

妊娠中期~後期
妊娠中期から後期はずっと1日5回の分食に変更し、1日12回以上食前のインスリン注射やインスリン補正を行っていました。分食にすることでお腹いっぱい食べることを避けられ、こまめにインスリン補正をすることができます。月々の医療費はインスリンポンプにすることでインスリン注射の頃より月1万円~2万円ほど上がりました。

妊娠後期
つわりが落ち着いた妊娠後期になると、私の場合、毎回ベースのインスリン(通常時12単位)が1.8倍必要でした。3日に一度のカニューレ交換は、3.5回でインスリンの1瓶(100単位入り)が無くなるほどインスリンが必要になりました。通常時の一食分のインスリン量が5~8単位に対して一食半量にしても8~10単位必要でした。
しかし、現在は双子のため、7か月となると臨月の時ほどお腹が出ているので、散歩や日常生活でも息切れするほどですが、お腹が張らないうちは普段と同じ生活を心がけています。28週からは、切迫早産の危険があると診断され、病院で安静にしています。入院中は、家事や育児をしていた生活と運動量もがらっとかわり、また双子ということもあり、医師の指示のもとベーサルは2.5倍まであがっています。

妊娠4回の私が感じた大切なこと

私が妊娠4回を通じて感じた大切なことは以下の3つです。
(1)頻繁に血糖値を測る
暇があれば血糖測定をしていました。妊娠時の血糖コントロールは胎児の大きさにも影響してくるので、一つの用事が終わる度に血糖値を測り、140を超えると0.1単位レベルで補正していました(1人目39週1日で4042g、2人目34週5日で2942g、3人目36週1日で3384gと全員頑張ってコントロールしても大きめでした)。また、4度目の妊娠でリブレ2(1分毎にグルコース値がリアルタイムで表示される持続血糖測定システム)を使用してスマートフォンの設定で血糖値の下は50、上は160で警告音を鳴らすようにし、「なるべく血糖値は100前後で」コントロールできるように意識しています。4度目の妊娠6か月後半のHbA1cは5.2%でした。

(2)主治医との信頼関係を築く
私は妊娠4回で、引越などもあり主治医が3回変わっていますが、3人とも信頼関係を築くことが出来ていると自負しています。「里帰り出産時の病院はどこがいいか?」「妊娠後期になるとお腹がすぐいっぱいになるため分食をどうするか?」「もとの治療法であるインスリン注射に戻すタイミングは?」など私の希望も伝えながら相談しています。
ただでさえ妊娠中は変化していく身体にストレスを感じるので、主治医を「信頼」することがとても大切だと感じました。治療に関して無駄なストレスを生まないようになんでも相談し、身体の変化を連絡し、生活の中で変更したこと、感じたことを報告することを心がけています。

(3)その時の経済状況に応じた治療法を選ぶ
SAPにすることで、もちろんもっと血糖コントロールできたかもしれませんが、貯金額や今後の必需品などを計算して、妊娠中と産後しばらくは「CSIIとリブレでコントロール」をする今の治療法になりました。産後も、「CSIIとリブレ」をしばらく続けたのは、母乳の糖質が増えると赤ちゃんが大きくなりすぎてしまうためです。子どもはもちろん大切ですが、生活もあります。現在の体調や経済状況も含めて、担当医とよく相談して治療法を決めるようにしましょう。

最後に


妊娠・出産は1型糖尿病でなくても命懸けです。「1人でなんとかする」という考えをやめて、周りの力を借りることを意識しています。パートナー、家族、友人、主治医…たくさんの人の力を借りて不安を取り除いていくことが大切だと思います。
「子育てはチームワーク」、今の私を支えてくれている言葉です。自分のチームを大切にして、頼ることを恐れないことです。
私たち日本IDDMネットワークもあなたのチームの一員として、この記事がお力になれたら幸いです。

プロフィール
名前:中新井美波
12歳に1型糖尿病発症。21年目。
3児の母で双子を妊娠中。
日本IDDMネットワーク職員。
岐阜県在住。
バンド「1-GATA」ヴォーカル。
YouTubeチャンネル【くっつきこむし】≪5児と2犬のママ≫

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